ー私、ボケているかしら−



先日友人夫婦と食事に行った時
私が言った。

「ねぇ、この頃ねー、昔の事を鮮明に思い出すのよ。
ついこの間までは、いくら考えても思い出せなかった
小学校の時の同級生の顔とか・・・

途中で転校していった子の顔までもハッキリとね。

別に昔のアルバムを見たりした訳でも無いのに・・・。

頭がクリアーになった感じって言うかー
なんでだろー、不思議ねー。」

すると、友人がキッパリ言ってくれた。
「それはねー、老いの始まり、ボケの始まりよー。」

「ボ、ボケの始まり〜〜?
だって、忘れたと言っている訳じゃないのよ。
思い出してるのに、どうしてボケの始まりなのよー。」

すると

「うちのお母さんもそうだったのよー。
ボケはじめた頃。(笑)




「ターボの母」さんが書いて下さいました。


年を取るとね
、昔のことは鮮明に覚えているけど
昨日のこと、さっきの事は全然覚えてないの。

じゃあさー、試しに聞くけど、貴方昨日何食べた?
おととい、3日前までの食事のメニュー全部言ってみて。」

そんなことぐらい・・・と考え始めたが
あろうことか
昨日の食事はともかく、おととい、3日前となると記憶は曖昧だ。

「ほらねー、それはボケの危険信号なのよ。アハハ・・」

皆で大笑いした。




「ターボの母」さんの作品です。


しかし

この程度なら笑い話だが
痴呆の老人を抱えた家族には深刻な問題である。



以前住んでいたマンションのすぐ近くに
山形出身の60代のおばさんが「お惣菜」を作り、
自宅の一階を改造して、ご主人と二人で小さな店を開いていた。
とても気のいい老夫婦である。

持ち帰り用が主だが
カウンター席もいくつか有り、そこでランチを食べる事もできる。

このお惣菜がとても美味しいので
おばさんに勧められるままに
いつしか時々その店で食事などをする様になった。

そんなある日

たまたま、客は私一人であった。
そこで
おばさんもカウンター席に座り、
パートさんとおじさんの4人で、井戸端会議となった。





おばさんが言った。

「うちの亡くなったお義父さんは年取ってからボケちゃって
そりゃあ大変だったけど、
今考えると、ボケ方にも色々あるねー。
お義父さんはいい方だったよ。

何出しても「美味しい、美味しい。有難う。」
って言ってさ。
ただ、ほんの少し前に食事が終わったばかりなのに、すぐ忘れちゃって
「昼飯はまだか・・・」何て言ってたけど(笑)。

あれなんか、まだ可愛い方だったよ。
ボケてても
ちゃんと人に対する
感謝の気持ってものがあったものさ。

だから、世話なんかしてても、ちっともイヤじゃなかったよ。


ところがさー
近頃、今度はお義母さんがボケちゃったんだよ。
それが
同じボケるにしても、こっちは全くタチが悪いんだよー。

この間なんかさー、真夜中に大声で
「ドロボー、ドロボー!」
って叫んだんだよ。

何事かと思って、お父さんと起きて行ってみたら

「押入れに隠しておいた大金が無くなっている
すぐに警察を呼んでくれ。」


ってもう大騒ぎなんだよ。

だけどさ、お義母さん、お金なんて持ってないのよー。
持ってる訳ないのよー。

何が大金よ、まったくー。
そんな金有ったら苦労しないって・・・。(笑)

それでも
あんまり何度も大騒ぎをするもんで
お義母さんが入院した時に、お父さんと二人で部屋中隈なく調べたけど
お金なんて貯金通帳にちょっと有っただけよー。
当たり前だけど・・・。

それがこの頃は
まぁ、
仏壇の鐘を持ち出して、毎晩ガンガンたたくんだよ。
それも真夜中にだよー。
近所迷惑ったらないわよー。

そばでおじさんも笑いながら言う。
「ホント困ったもんだよなー。
あー、今夜も又討ち入りが始まったー・・・
ってなもんだよー。ハハハ」


「アンタ、笑い事じゃないわよー。
私はこの仕事の仕込みで毎朝4時半には起きなきゃならないのに
毎晩2時、3時にガンガンやられたんじゃ、たまんないわよー。

でもねー、奥さん、それだけじゃないのよー。
とにかく一番頭に来たのはね
この間、お義母さんがまた具合が悪くなって病院に入院したのよー。

それで、お父さんと着替えなんかを持って病院に行ったんだよ。

そしたらアンタ、何て言ったと思う?

看護婦さんや、他の入院患者の前で大声で

「助けてくれ〜〜。悪魔が来た〜。怖い、怖い・・・・。」
って震えながら、私を指差すじゃないのー。

何が悪魔よ。
人に何年も下の世話までさせておいて、言うに事欠いて
いくら何でも悪魔は無いでしょうが、悪魔はー。

これじゃー、知らない人が聞いたら
私がいじめていると思われるじゃないのよー。

冗談じゃないわよ。

ホントに、年取ってボケるのは仕方ないとしても、
こんな風にはボケたくないもんだよねー。


おばさんが怒るのも無理はない。
確かに日頃からこのお婆さんの面倒を良く見ていたもの・・・。

でも、話し方が面白かったので、皆で大笑いした。

しかし、これでは確かに大変であろう。




また
いつぞやは、痴呆症のお母様の面倒を見ている
友人宅に呼ばれて行った。

訪問中、2時間ほどの間に三度も
「この方、どなた?」と聞かれた。

だが、
友人が答える度に「お綺麗な方ですねー。」

などと言われたので、快く全く同じ自己紹介を3回させて頂いた。(^_-)





しかし、ボケとまではいかないが
すぐに忘れてしまう・・・という事は私達にだってよくある。


私はテニスが趣味である。
そのテニスでよくあるのが、「カウントを忘れる」
というヤツである。

「えーとー、今カウント何でしたっけ・・・・」
と誰かが聞く。

すると
4人が4人ともまちまちな答えが返ってくる事だってある。
たった5分前の事が中々思い出せないのだ。

クラブ内のテニスで、ジャッジでもめて喧嘩になり、
殴り合いになった人だっている。
(ホントだってば・・・)

いやはや、ボケてなどいる場合ではない・・・。



そのテニスクラブで良く聞かれたものである。

「ところで、貴方何年生まれ?」
どうやら私は年齢不詳であるらしい・・・。

「えっ?わ、わたしですか?
あの〜・・・昭和38年生まれです。」

軽い冗談で言ったつもりが、何故か皆信じてしまった。
仕方がないから
その後1年間はそれで通したわ。(^_-)


これって

「と・ボケ」?^_^;