Short Shorts 11

シャンディママの
運転免許取得ストーリー〜





先日良く行く八百屋の前に車を止め、買物をしていたら
その店のご主人が私に言った。

「奥さん、その車で夜中に第三京浜あたりをブッ飛ばしてんでしょう。
いいね〜。」


私は高速をブッ飛ばしたことなど一度もない。
というより、高速に乗ることすら出来ないのだよ。
人は見かけに寄らない・・・。

人は私を見ると、何故か、必ずと言って良いほど
車をブッ飛ばすタイプだと思ってしまうようである。
大きな勘違いだ。


私は車の運転などそもそも好きではないし、
その上、自慢じゃないが「方向音痴」だ。
それも・・・病的に・・・。

例えば何処か主人は初めての場所で
私だけが1〜2度行った事のある場所に行くとする。

すると主人が
「え〜と、次の信号で右?それとも左?」

「たぶん右だと思うの・・・・」

「そう、じゃあ、左だね。」

そして、それが本当に左だったりするから腹が立つの。

まさに「地図が読めない女」なんだよね〜〜。

「やっぱり私にはママチャリがお似合いなのよね〜」

とある日友達に言ったら
「あなたほどママチャリが似合わない人も珍しいわよ。」

と言われてしまった・・・。

どういう意味〜?





そんな私が・・・
ひょんな事から運転免許を取る事となってしまったのだ。


それは・・・・

今から15年ほど前の事である。

主人が米国のマイアミに仕事があり
1年間ほど会社がアパートを借りてくれた事がある。

何しろ、一年の半分以上がマイアミでの仕事となり
ホテル暮らしでは何かと不便だった為である。

その頃はやはり我家にはシー・ズー犬の「サニー」がいたので
そう頻繁に私が一緒にマイアミに行く事は出来なかったが
それでも
たまたま私の知り合いに
犬好きで、しかも家族揃って優しい人達ばかりで
サニーもすっかりなついていた為、
安心して私も何度かマイアミに遊びに行く事が出来た。





そんな何度目かにマイアミに行っていたある日の事
突然、主人が言った。

「せっかくマイアミに遊びに来ても、ボクは仕事で殆どいないし退屈でしょう。
だったら、ここで車の免許でも取ったらどう?

試験も簡単だし、今回は後10日で貴方は日本に帰らなきゃならないから
取敢えずペーパーテストだけでも受けて、
合格したら半年以内に運転を練習して試験を受ければいいのだから。
それは次回ここに来た時に取ればいいのだし・・・。

日本で免許を取ると高そうだけど、ここなら安いし
暇つぶしにも丁度いいんじゃない?」

確かに一人でアパートにいても退屈であった。
その上、日に何度もセールスの電話が入る。

受話器を取ったとたんに大声の早口で機関銃のようにしゃべりまくるのだ。
それも英語とスペイン語で・・・・。

最初は何事が起きたかと思った。
慌てて切ったら何度でもかかって来た。
しつこい・・・。

心を落ち着けて良〜く聞いたら「新聞を取らないか・・・」
と言っていた。
脅かすな!

マイアミはスベイン語を話す人口が非常に多いのだ。
だから同じ事を英語とスペイン語でまくしたてるのだ。
煩わしいといったらなかった。


それはともかく
それならばと・・・取敢えずやってみる事にした。





早速、主人が「免許取得」の為のテキストを手に入れてきた。
A4サイズ位で10ページほどの小冊子である。

これを覚えておけば90点ほど取れてほぼ合格するという。
これ以外の問題は10問ほどだそうだ。

アパートと言ってもプール付きである。
プールサイドで
とに角、数日間このテキストを勉強し試験を受けてみた。

しかし、さすがはアメリカである。
問題そのものは、ほとんど簡単な交通ルールについてであるが
中にはすごい問題もあった。

「麻薬をやってさらに泥酔し、人身事故を引き起こした場合の罰金はいくらか。」
麻薬と酒を同時にやる人なんているのだろうか・・・。
確か4択であった。

そんなこと知るかい!

ってな訳で、この手のテキストには書いて無かった問題については
あてずっぽうで一番高い額にしておいたが
こんな問題が5問ほどもあったぞ。

これらの正解は未だに分らないが
とに角91点で合格した。
そして
その日の内に仮免許証が発行された。





それならば、運転の練習も出来るだけ今回やっておいて
次回マイアミに来た時に、又運転のレッスンをできるだけ受け
運転の方の試験を受けたらどうか・・・。

という事になり、主人が早速知り合いに聞いて先生を見つけてきた。
翌日先生がアパートにやって来た。

40才がらみのちょっと小太りで、人の良さそうなプエルトリコ人で
名前はロドリゲスといった。

早速、毎日1時間、5日間レッスンを受ける事となった。
料金は1時間で5000円程で有ったと記憶する。

車は比較的新しい黒の「ムスタング」である。


まず、あまり人通りのない道まで彼が運転して行く。
それから初めての運転練習となった。

しかし、アメリカは車は右側通行の左ハンドルである。
真っ直ぐ走っているときは問題ない。

問題はどちらかに曲がる時である。

私の頭の中には
「人は右、車は左」としっかりインプットされている。
だから
どうしても右に曲がる時には向こう側の反対車線に入ってしまいそうになるのだ。

そのたびにロドリゲスが
「オー・ノー!」
と叫びながら隣から必死にハンドルをグーっと回す・・・。
当たり前だ。
対抗車線に入ろうとしていたのだから・・・。
先生も命がけだ。

あまり車の走っていない場所などは取分け間違えやすい。

あるときには公園で駐車の練習だ。
バック駐車、縦列駐車
「スリーポイント・ターン」などである。

そんなある日
公園での練習を終えて帰る為、車道に入りたいのだが
次次と車が通っているので、
初めての私はウィンカーを出したまま、中々入っていけない。

すると
トラックに乗った二人の若者が
「どうぞ」というようにスピードをゆるめてくれた。
なのに入れない・・・。
すると今度はハザードランプでどうぞと合図をしてくれた。
まだモタモタしていると
「ヘイ!今日中には入ってくれるかい〜?」
と大笑いされてしまった。





そんな練習を5日間、毎日1時間受け、
いよいよ明後日には日本に帰る・・・という時
ロドリゲスが主人に言った。

「いやあ、貴方の奥さんは天才です。
今まで色んな人に運転を教えてきたが、これほど完璧に出来た人は初めてです。
これなら、半年待たなくても、
若しかしたら、試験に受かるかもしれないですよ。
ダメで元々だし、料金も安いです。
試しに明日、試験を受けさせて見たらどうですか。」

私の帰国は2日後であった。

主人も「やるだけやってみれば・・・」
と言う。

結局、とに角試験を受けて見る事になった。
無謀と言えば無謀である。





その日、やはり運転には自信の無い私は
主人に頼んでみた。

「明日試験を受けると言っても全く自信ないし、
出来ればもう少し練習しておきたいから、
貴方のレンタカーで運転の練習を手伝ってくれる?」

アメリカでは仮免があると、
免許保持者が助手席に乗れば運転の練習をしても良い事に成っている。

「いいよ。」
と気軽に言ってくれ、走り出したのだが、たったの5分で戻って来てしまった。

「こんな運転で、よくロドリゲスが毎日乗っていられるものだ。
貴方が天才でこの運転なら、他の人はどんなんだろう。
いや〜、1時間で5000円は高いと思っていたけど、安い、安い・・・。
ヒェ〜、心臓が止まるかと思った!

それっきり手伝うとは二度と言わなかったわい。





そんなこんなで、翌日はロドリゲスと試験会場に向かった。
何と、高速を私の運転で・・・。

会場にはロドリゲスの発案で2時間前に行き、又途中で練習だ。
一番苦手なのは「縦列駐車」で
これさえクリアー出来たら「合格」間違いない・・・と彼は言う。


そして、試験となった。
審査官は怖そうなオジサンで、ちょっとアガってしまったが
何とか無事に走行していた。

問題は「縦列駐車」である。
おおー、うまく止められた・・・・と思った。
これで、合格だわ・・・ウフッと心の中で喜んだそのとき

「やり直し!」

「えっ、ええ〜〜っ・・・」

縁石との間が50センチもある・・・という。
私にしては上出来だったのにぃ〜・・・。

すっかりパニックになってしまった。
そんな〜・・・と頭は真っ白・・・。

前に車を出してはみたものの、
ハンドルをどう切ったらタイヤがどう曲がるのかすら分らなくなってしまった。

「あれ?あれ?」
と二度、三度やっている内に益々混乱・・・。

いきなり
「落第!」
と言われてしまったのだよ。

落ち込んで建物の前の空いている駐車場まで戻り
車を駐車したとたん・・・
「オーマイゴッド!」
と叫ぶ審査官。

今度はなに〜?
と思ったら、そこは何と
「身体障害者専用」の場所であった。
アメリカでは
「身体障害者専用」の場所に車を止めると500ドルの罰金だったのだ・・・。
トホホ・・・。

憮然と立ち去る審査官。
立ち尽くす私・・・。
グスッ・・・。


そんな訳で、結局「免許取得」は次の機会に・・・と相成った。

その半年後
いつも「サニー」を預かってくれていたお宅が猫を飼った為
もう預かれないという事になり、

私のアメリカでの「免許取得」は頓挫した。


しかし
考えて見ると、やはりたった5〜6時間の練習で
仮に免許を取れたとしても
東京で運転などは出来るはずも無く、又交通ルールも違う。

そんな訳で
乗りかかった舟のようなもので
今度は改めて東京で挑戦する事となった。





その頃、我家の近くには「東急自動車学校」があった。
そこで
ある日、申込みの為に出かけて行った。


そこで手続きを済ませ、ごく軽い気持で受付嬢に聞いた。

「免許取得にどの位の期間を見たらいいでしょうか・・・」
すると彼女
たまたま通りかかったここの先生と思しき男性に言った。

「あの〜、この方が免許取るのにどの位かかるか・・・・
と聞かれているんですが〜〜。」

すると彼は
私をしばらくジロジロ見ながら言ったのだ。
それもかなりブッキラボーにだ・・・。
「早くて3ヶ月、遅ければ半年だね。」

「あのー、3ヶ月後には予定が有るのですけど、2ヶ月では無理でしょうか・・・。」

「無理、無理・・・。お宅の年齢だと早くて3ヶ月だな。
あんたねー、そんなに簡単に免許が取れると思ってるの?」

全く態度が悪い。
今ならこんな態度の教官など務まらないだろうが
その頃はバブルの真っ只中、黙っていても客がワンサカ集まっていたのだ。
すっかり頭に来てしまった。

「それなら1ヶ月で取ってやろうじゃないの。」
と心に決めた。

そして、1ヶ月で見事に「免許」を取ったのだよー。
18才の若者並の費用と期間でね


どうよ〜〜!

ついでに卒業の時のアンケートに
「貴方は、この教習所を友人にも紹介したいと思いますか。」
というのが有ったので

「いいえ。」に二重丸。
ついでに「絶対に!」とわざわざ大きく書き加えて来てやったぞ。





それにしても、あれから15年
毎日運転しているのに、行けるのはいつもの場所だけ・・・。

夫が見かねて「カーナビ」を付けてくれたのだけど
「交通事情が変わりました。
次の信号を右に曲がって下さい。」
「ええ〜、そんな道知らないから行かない・・・・。」

こんな私が「夜中に高速をブッ飛ばす・・・」と思います〜?

それにしてもいつかテニス友達にも言われたな〜。

「〇〇ちゃんが、その車運転してると
まるで走る凶器だね〜。」



15年間も無事故無違反の
「優良ドライバー」に対して失礼だと思いませ〜ん?





さて、話はこれで終わりなんだけどねー、

何です?
今回は
「オチ」がない・・・ですって?

だからねー
東京の試験では
オチなかったんだってぱ・・・。