カラスの話 その2




今から三年ほど前の話である。
前に住んでいたマンションはやはり世田谷区内の
今のマンションから車で5分程の閑静な住宅地にあった。

環状八号線から通りを3本ほど内側に入ったところにある
三階建のマンションだ。

夜は物音ひとつしない静かなところであったが
ある時を境に、急にカラスの騒音に悩まされるようになったのだ。

不思議なことに、シャンディの散歩をしていて気付いたのだが
始めは環八から一本中に入った通りで
カラスを大量に見かけるようになった。

生ゴミの収集日ともなると、ゴミに群がるカラスと
その付近の電線には、鈴なりに何十羽のカラスが止まっていて
下を通りかかる我々をジッと睨むのだ。





そして、そのゴミの散乱振りと悪臭といったら
想像を絶する程だった。


たまりかねた付近の住人は区が配布するゴミ用ネットをかけるようになった。

すると

すぐにカラスも全員大挙して一本内側の通りに
民族の大移動ならぬカラスの大移動を始めた。

そして
その二本目の通りは全く一本目の通りと同じ有様となった・・・・

すると、又しても
その付近の住人がゴミにネットを掛けるようになった。

いよいよ
うちのマンションの前の通りにカラスが大移動して来た。
いやはや、大変な数である。


このマンションは、今から約18年前に
「光と風のハーモニー」をキャッチフレーズに売り出したマンションである。

どの部屋にも風が通り抜けるように
隣同士の間にはパティオがあり、窓は全室二箇所ずつで
その一つはルーバー式になっている。

少し風を入れたい時には
ガラスを少し斜めに開ければ風が入るようになっている。

しかし
これが災いであった。

風も入るが音も入ってくるのだ。


このカラスの大群
朝といわず、昼といわず、真夜中までガァガァと鳴き続けるのだ。
全くの休みなしだ。

これでは「セブンイレブン」どころか24時間営業である。

よく疲れないものだ。交代制なのだろうか・・・・。


昔は
♪ カラスと一緒にかえりましょ〜・・・♪

などという、のどかな歌もあったが
とんでもない!





時間など全くお構いなしだ。

ましてや、このマンション

寝室側が中庭になっていて、広い駐車場と庭園があり
ケヤキの木やら様々な木が植えてあるから
カラスが止まる場所には事かかない。

中庭の木といわず駐車場の塀、マンションの屋上にまで
カラスが止まり、大騒ぎである。
大量のフンまでおまけつきだ。

間違っても笑いながら上などは見上げない事だ。





ルーバー式の窓は閉めても完全に音はシャットアウトできないらしい。

寝られたものではない。

とにかく時間に関係なく鳴き続けるものだからたまったものではない。

完全な睡眠不足で
それでなくともボーッとしている頭が、さらにボーッとする毎日である。

そんなある日

フト、考えた。



カラスに腹を立てていても仕方が無い。
どうやらカラスは会話をしているらしい。

1羽のカラスが「カァー、カァー」鳴くと
必ず遠くの方から返事が返ってくるではないか。
中々、興味深い・・・。

ものは考え様だ。

一つこの際、「カラスの会話」をじっくり聞いてみようではないか。

「犬語が分る本」とかもあったような気がする。


そこで
カラスの鳴き声をメモりながら聞いてみることにした。


すると、面白い事が分った。

「カァ〜」の1回、二回鳴き
これは、いわば呼びかけであろう。
時たま、返事がないからの〜。

会話として鳴く回数的に一番多かったのは、

「カァー、カァー、カァー」の3回か4回連続鳴きだ。
10回のうちの2、3回はこれである。

これは、挨拶であろうか・・・。

しかし、同じ三回鳴きでも、色々と微妙な違いがある。
間の取りかたや声の調子に様々なバリエーションがあるのだよ。
その上
数えて見ると最高32回の連続鳴きがあったぞ。

そして、「クワッ、クワッ、クワッ」
と正に緊急事態を告げるような鳴き方まである。

これらの回数と鳴き方の種類の組み合わせ等を考えると、
カラスというのは
ひょっとすると、人間以上のボキャブラリーを持っているのかも知れない。

いやあ、大したものである。

少なくとも、食料のありかを教えるのに
32番地までは間違いなく伝えられるのだ。

すごい!すごい!




と・・・

私の「カラス語」研究も佳境に入ったころのある朝の事・・・。


いきなり
「バァ〜ン!、バァ〜ン」
と、二発の猟銃のような音が・・・。

と言っても
猟銃など見たことも、又音などもテレビでしか聞いたこともないのだが
そんな感じの音であった。

何事かと思ったが、
今まで「ガァ〜、ガァ〜」と大騒ぎをしていたカラスもさすがに
ギョッとしたのか、一瞬、

シィーン!
となった。

しかし、5分か10分後には、又すぐに元の騒がしさに戻っておった。

多分、このカラスの騒音にたまりかねた近所の住人が
空砲でも撃ったのではなかろうか・・・。

法律的な事は知らないが
確かにこの騒音は銃でも撃ちたくなるほど、すさまじいものであったぞ。

何の効果もなかったがの〜。


そんなことが有ったりして

いよいよ面白くなってきたところであったが

残念な事に
ついに当マンションもゴミにネットをかける事になってしまった。

そして
カラスは去って行った・・・。






それにしても

夜寝られずに
「羊が一匹・・・、羊が二匹・・・」

と数えるのはよくある話だが

「カア〜」が1回、「クワッ」が2回・・・

などと真夜中に勘定しておったのは
世界広しといえども、この私一人かも知れない・・・・。



我ながらめでたい性格である。


*カラスの写真はネット友達の「Clara」さんよりお借りしました。