シャンディの日記 8

ー 迷子のポメラニアン ー







それはね、ついこの間の水曜日の事だったの・・・。



「水曜日」はお母さんがいつも朝からテニスに行く日でね
その日も出かける前に、ボクのお散歩を急いでしてくれたんだけど・・・・

ボク、ちょっとね、お腹の調子が良くなかったの。

それでね
お母さんのベッドの上で寝ながらお留守番してたんだけどね
急に気分が悪くなって、「ゲッ」ってお布団の上に戻しちゃったの〜。

だからね
お母さんが午後3時半頃家にかえって来た時
謝ろうと思って
「お母さん、お母さん・・・」
って、言ったんだけど、
お母さんはベッドルームには行かなかったから気が付かなくて、

ただ
「あら、シャンディ、何かヘンね〜。
お腹がヘンなの?
じゃあ、急いでお散歩に行ってみようか・・・。」

って、ボクを外に連れ出したの。



そして、すぐ次の角の所まで行った時
お散歩用の紐をつけて一人で歩いているポメラニアンを
お母さんが見つけたの。

それで、お母さんは
「あら、アナタ一人でお散歩に来ちゃったの?
どこの子?
こっちにおいで・・・・」

って言ったの。

そしたらね、
その子がトコトコやって来てボクと遊ぼうとしたんだけど

ボクはちょっと怖かったの。

それでお母さんはボクを抱っこして
「とにかくポメちゃん、アナタ一人でお散歩してたら危ないよ。
困ったわね〜。
でも、まずママを探しに行かなくちゃ・・・ね。」

って、言ってそのまま家に引き返したの。




で、ボクを家に置いてね
ちょっと寒くなったからって、上着を取りにベッドルームに入ったとたん・・・

「きゃ〜〜〜!
シャンディ、掛け布団の上に戻しちゃったの〜?
まぁ、大変・・・。
でも、ポメちゃんのママが今頃必死に探しているよね〜。
お布団はこの際後だわ〜・・・

じゃあ、シャンディ、なるべく早く戻って来るからね〜。」

って言って、出かけて行ったの。

でもね、それから大変だったってお母さんが言ってたよ。





お母さんは自転車の後ろのカゴにそのポメちゃんを乗せて
近所を1時間以上も走り回って飼い主を必死に探したんだって・・・。

近所の道路は全て廻り、ワンちゃんをお散歩させている人には
片っ端から
「このワンちゃんを見かけた事はありませんか?」
って聞いて歩いたらしい・・・。


でも、飼い主はついに見つからず
結局、近くの交番に連れて行ってみる事にしたんだって。





「すみません。迷い犬のようなんですけど
誰か探しに来た人はいませんか?」

すると

おまわりさんが
「今の所、犬を探しに来た人はいないですよ。
でも、取敢えず一晩ここで預かりましょう。
では、ここに奥さんの住所・氏名・電話番号・年齢を書いて下さい。」

「えっ?年齢もですか?
私の年と何の関係が有るんですか?」

「これは一応、拾得物という事になるんですよ。
だからその書類なんで、お願いします。」

「拾得物?このワンちゃんが拾得物なんですか?」

「そういう扱いなんですよ。」

「で、このワンちゃんは今後どういう扱いになるんでしょうか・・・。」


「今日はもうこの時間なのでここで預かります。
でも、ここは交番なので、
明日になったら「警察署」の方に連れて行く事になります。
それで決められた日までに飼い主が現れないと
保健所に連れて行く事になるようですね〜。」

「えっ?それは可哀想ですよ・・・。
この子は絶対に家の近所の子に間違いないんです。
お散歩の時に、1、2度見かけた事が有るんですよ。

ポメラニアンは最近珍しいので覚えているんです。
これだけ人懐っこいのは可愛がられている証拠です。
きっとこの子の飼い主は、今頃必死で探している筈なんです。

私は家のワンコの体調が良くないようなので一旦家に帰りますが
とに角、後で又きます。」

すると、そのおまわりさんが
「そうですか。それじゃあ、私がこれから1時間位
お宅の近所を連れて歩いてみましょう。
ついでに近所の獣医さんにも聞いてみましょう。」

って、言ってくれたんだって。




お母さんは急いで家に帰って来て
「ああ、洗える掛け布団にしといて良かったわ〜。」
とか言いながら、
洗濯機にボクが汚しちゃったお布団とカバーを入れて

それからボクの散歩もしてくれたの。

それから
今度はボクのドッグフードとおやつを持ってね
あ、それとデジカメも持って行ったんだよ。
写真を撮って電信柱に「保護しています」
ってチラシを貼るつもりだったんだって・・・。


それで交番に戻ってみると

「あっ、奥さん、あのワンちゃんならね、
さっきお宅の近所を連れて歩いている時に
あの近所の犬好きの奥さんが、今晩一晩なら預かって上げてもいい・・・
って言ってくれたんで、置いてきましたよ。

「そうですか・・・。取敢えずは安心しました。じゃあ明日又来ます。
私が来る前に警察署にはやらないで下さいませんか?
明日もう一度飼い主を探してみますから・・・」

と言って帰って来たんだって・・・。





それから2時間後・・・・

「こちら〇〇の交番の者ですが、
さっきのワンちゃんの飼い主が見つかったんですよ。
それで、後でお宅にお礼に伺いたいって言ってるんですが
お宅の住所を教えてもいいですかね〜。」

「いえ、それは困ります」
って、お母さんが言ったんだけど

結局、その夜の8時頃、その飼い主が家を訪ねてきたの・・・。

お母さんはね、
もう夜だし、まさかその日の内に訪ねて来るとは思っていなかったから
もうパジャマ姿になってて
いつものようにパソなんかやってくつろいでいたところだったので
もう大慌て・・・・。

「少々お待ち下さい。」
とか言って、
ものすごい早業で変身していたよ〜。


それからね〜
「お待たせしてすみません・・・」
とか言って、ボクを抱っこして玄関の扉を開けたとたん・・・・


「あら〜、奥さんだったの〜!
まぁ〜有難う・・・」

って言いながら
いきなりお母さんの手を握ったの〜。

その奥さんは50代後半位の人でね、娘さんも一緒に来たんだよ。

その人たちはね、何とホントにすぐ近所に住んでる人でね
前にお母さんがピンクの綺麗な家の前でボクの写真を撮っていた時に

「可愛いワンちゃんですね〜。
実はこの家は私の娘の家なんです。
忙しくて中々引越してこられないもので、ここはまだ空家になっていますけどね
もうすぐ引越して来るんですよ〜。
私の家はこの裏なんですよ〜。」

なんて、前に話しかけて来てくれた人だったの。





でも、その奥さんがポメちゃんを連れているのは
お母さんもボクも見たことが無かったから知らなかったんだよね。




それでね、その奥さんが話し始めたの・・・。。


「あの子は主人がとても可愛がっていた犬で
名前は「ポビィ」っていいます。

それは可愛がって
シャンプーもお散歩も全部主人がやっていたんですよ〜。。

ところが、3ヶ月前に主人が突然亡くなってしまったんです・・・。
それからは私も何かと忙しくて
相続の問題やら色々有りまして・・・。

だから
中々お散歩にも連れて行ってあげられなかったんです。

今日もすぐにお散歩に連れて行くつもりでリードも付けて
ちょっと家の中に繋いでおいたんですけど

何しろ主人の相続の関係書類が山になっていたもので
ちょっと目を通している内に夢中になってしまって
すっかりポピーの事を忘れてしまっていたんです。

気が付いたらいなかったんですよ〜。
すぐに近くに住む娘にも連絡して、
二人で必死に近所を1時間以上も歩いて探し廻ったんですけど
見つからなくて・・・。

それで交番に行ってみたら、奥さんが届けて下さっていたんです。
本当に有難うございました。


主人があんなに可愛がっていたポピーに万一の事が有ったら・・・
亡くなった主人に申し訳が立ちません。

ホントに何とお礼を言っていいのか・・・。



でもね、奥さん
主人が亡くなった時、布団に横たわっていた主人の事を
あの子は、最初寝ていると思ったらしく
側に飛んで行って、顔をペロペロ舐めたんです。

お父さん、起きて〜。
とでも言うように・・・・。

でも、冷たかったからヘンだと思ったようなんです。


それでも、暫くしてもう一度顔を舐めに行きました。
そして、やっと分ったようなんです。

それからは、もう舐めには行きませんでした。
遠くからそっと見ていましたよ・・・。(涙)

それからなんです。
何度か私の隙を見て脱走するようになったんです。

私も主人の葬儀やらで忙しくしていましたしね
人の出入りも多かったものですから、その隙に脱走したんです。

幸い、すぐに気が付いて何事も無かったから良かったんですけどね。

どうやら、主人を探しているようなんです。
ホントに切ないですよ〜。(涙)


って言ってね、娘さんと泣いちゃったの。
お母さんも涙ぐんでたよ・・・。




でも、すぐにママが見つかって良かったね。
ポピーちゃん。

もう、危ないから脱走しちゃダメだよ〜。

ねっ、お母さん・・・。