クリスマス・メモリー




それは、日本がまだバブル景気の真っ只中にあった頃の
ある12月始めの事であった。

夜、何気なくテレビを見ていると、
「ユニセフ親善大使」の黒柳徹子さんが、
干ばつによるアフリカの惨状を、映像と共に紹介していた。












それは、
まさに、地獄のような映像と話であった。

道端には、飢えで行き倒れになった人々の死体が放置され、
食料を求めて命がけでキャンプまで来たという人々の姿も
また、悲惨な有様であった。

栄養失調の為に顔は落ち窪み、
お腹は異常にふくれている。

空腹の為に泣き叫ぶ赤ちゃんの、その涙にさえ、
甘さを求めてハエがたかり
その母には、それを振り払う力さえない。


ショックだった。

テレビに募金の振込先が流れた。
すぐにメモを取った。

その後、黒柳徹子署の「飢えるアフリカ」の本を読んだ

涙が止まらなかった。

その中で、あるボランティアの方が言った言葉が今も忘れられない。

「ここでは、小さな子供たちが最初はひもじくて泣いているんです。
一晩中、ヒューヒューとね。
その声がだんだん弱くなって、やがて止む。
そうすると、死んでいるんです。」

何かしなければ・・・少しでも何かしたいと思った。



そんな時、ふとあることを思いだした。

その頃、同じマンションの奥さん同士で持ち回りで、よくお茶会をした。
ある日、たまたま友人に教わって作った「バナナケーキ」を持参したところ
大好評だったのだ。
ふつうのバナナケーキとはちょっと違い、バナナがザクザク入っている。
それを作って私たちに売って欲しい・・・と皆が冗談まじりに言い出したのだ。
その時は笑って終わった。










そこで

何人かに、電話で話をしてみることにした。
「この間のバナナケーキですが、、本当に買って頂けるのであれば、
ユニセフに寄付する為に作りたいのですが・・・。」
と。
皆、大賛成をしてくれた。

持つべきものは、良い友達・・・。と本当に心から感謝した。

こうして、その年から「バナナケーキ」による「ユニセフ募金」が始まった。

口コミで毎年50本以上の注文が入った。

年末に「ユニセフ協会」宛全額送金した。
買って頂いた方には、後日、協会から送られて来た領収書と
感謝状をコピーしてお渡しした。
材料費はこちら持ちという事にしたので、毎年10万円以上送金することができた。

何か少しだけ、ボランティアの真似事をしただけだけれど
それでも満足感があった。
嬉しかった。

そんなある年、ひょんなことから
主人が「ユニセフ募金」の為に「サンタさん」をする事になった。



マンションの小さな子供さんのいるお宅からクリスマスプレゼントを
前日お預かりし、クリスマスの夜、サンタさんが届ける事になったのだ。
お礼は1軒、千円と決めた。
13軒のお宅から希望があった。

いよいよ、当日、サンタさんはバッチリとコスチュームを決め
プレゼントを大きな袋にいれ、
ついでに、自分で買い込んで来たお菓子までいれて

「ホーッホッホー!」と1軒ずつプレゼントを運んで回った。









それは、まさにピッタリの役どころであった。

大好評であった。

子供たちばかりか、各家庭は、両親からおじいちゃん、おばあちゃんまでが集まり
八ミリビデオやらカメラで待ち構え
大変な盛り上がりだったそうである。


(ミセスサンタは、プレゼントを間違えないよう、手配し
ドアの外で凍えて待っていたのだ・・・さぶっ)

こうしてサンタさんのボランティアも、バブル時代であった事もあり
1軒で5千円から、中には1万円も寄付して下さった方さえいて、
この年はケーキ代とあわせて大変な金額の寄付となった。



そして

翌年の初め、あるママさんが訪ねてこられた。

「この間のクリスマスには本当に有難うございました。
家の子は小学2年生なのに、
今までもずっとサンタさんはいる。と信じていました。
だから、あのクリスマスは、子供にとって忘れられないいい思い出となりました。
いまもサンタさんと一緒に撮った写真を後生大事にしています。
そして、それを信じさせて頂いたことに、本当に感謝しています。
ご迷惑かと思いますが、子供がどうしてもサンタさんに届けて欲しいと
手紙を書いたんです。
受け取っていただけませんか。」

手紙には、こう書いてありました


「サンタクロースさまへ

私は、今年のクリスマスはプレゼントをもらうのは、やめようと思います。
だって、今年は台風や、つなみのさい害で、
私よりも困っているひとたちがいっぱいいるからです。
だから、サンタクロースさんもソマリアやヘルツゴビナーとかの国にまわって
少しでもその人たちが幸せな気持になるようにして上げて下さい。

サンタクロースさんへねがいごと
いつもすなおでやさしい人になれますように。