その1ー

この子たちの幸せを祈って」


それは、3年ほど前のある夏の日の事であった。

いつもは大通りはなるべく散歩をしないのだが、
その日は
シャンディがその道を選んだ。

それは「中町通り」で、その先を1キロほど行くと
246号線に繋がっている。

信号の近くを通りかかった時
白の高級車がすれ違った。

乗っていたのは30代くらいの若い夫婦のようだった。
奥さんの手には、白いマルチーズが抱かれていた。

「可愛いなー」
と何気なく見ていた。

信号は「赤」で、その車も止まった。
やがて
信号が「青」に変わろうとした。

その時・・・

助手席に座っていた奥さんが、いきなり車のドアを開け、
抱いていたマルチーズをポイと歩道に放り出した。


そして
信号が青に変わったとたん、そのまま走り出したのだ。

一瞬、何があったのか、私にも分からなかった。

そのマルチーズは、必死に車を追いかけた。
まだ、子犬のようだった。

本当に可哀想で
そして
走るその後姿が哀れであった・・・。

私もシャンディを引っ張りながら、後を追いかけた。
でも、追いつけなかった。
すぐに見えなくなってしまったのだ。

家が近かったので、急いでシャンディを家に置き
すぐに自転車で探しに行った。
見つからなかった・・・。
246号線あたりも探したが、事故の形跡もなかった。

暫くしてから保健所に問い合わせた。
「そのような犬は保護されていない」
との事であった。

3日ほど経った時、ある犬友達が言った。

「3日ほど前に、近くのスーパーの入り口にマルチーズの子犬が
ひもで繋がれていた。」
と。
そのスーパーは、丁度その子犬が捨てられたあたりにある。

その子は、迷子になった後、
そこまで引き返したのか・・・。

その後、その子がどうなったかは知らない、という。

すぐに、そのスーパーまで聞きに行った。

すると
確かに迷い犬らしいとお客が連れてきて、ここに繋いで行ったが
閉店の頃にはいなくなっていたという。

雑種の子なら分からないが「マルチーズ」の子犬である。

誰かが引き取って行ったのかも知れない。

あの時、あの瞬間
あの子は何も知らずに幸せそうにママに抱っこされていた。

それが、突然捨てられた。

まるでゴミのように・・・。

そして

あの時、その女は決して悲しそうでもなければ、泣いてもいなかった。

信じられなかった。

今頃、どうしているのだろう・・・。

優しい人に引き取られ、
幸せになっている事を願うばかりである・・・。