ーシャンディの大事件ー





それはね、去年の7月頃の事だったの。
雨上がりのある晩の事なんだ。

その日はね、ボク、ちょっとお腹の調子が悪かったから
朝から一回もウン〇が出なかったの。

それで夜10時頃にね、お母さんが心配して

「じゃ、寝る前にもう一回だけお散歩に行って見ようか。
丁度、牛乳が切れているし、近くのコンビニに一緒に買いに行こう・・・」





って、言ってくれたんだけど、
ホントはボクあんまり行きたくなかったんだ。
ちょっとねー、元気じゃなかったの。

でも、仕方なくついて行ったの。



お父さんからは「10時半頃仕事から帰る」
って、連絡があったみたいだった。

それでね、近くのコンビニに着いた時
お母さんは、お店の前に置いてあった簡易傘立てに
ボクの紐を結んだんだ。

その時、ボクがちょっとよそ見をしててね
フト気が付いたらお母さんがいなかったの。

いつもはちゃんと
「すぐ戻るから、待っててね。」
って言って、お店の中からもずっとボクのこと見ててくれるのに・・・

ボク、もうびっくりしちゃって
「あっ、お母さんがいなくなっちゃった。どうしよう、急いで追いかけなくちゃ。」

と思ったの。

でも、紐が傘立てに結んであって、いくら引っ張ってもはずれなかったの。

それにビニール傘が3本も入っていたから
すんごく重かったんだ。

でも、仕方がないから
傘立てをくっつけたままで、一生懸命お母さんを追いかけたの。





実際はお母さんはまだお店の中だったんだけどね。
混んでて見えなかったの。

しばらくしたら、やっと紐がほどけたの。
良かったぁ。
重くてボク、死ぬかと思ったぁ〜。







車も沢山通っていたけど、ボク頑張ったよ。

最初の交差点では
ボクが傘立てを引きずっていたから、車に轢かれなかったのかな〜。
ちょっと怖かった・・・。


でも、無事に通れた〜。
ああ、良かった。ふぅ〜っ。





それから又、

しばらくお家探しながら歩いたの。
一人で道路を歩いたの初めてだったから、やっぱり怖かった・・・。
遅い時間だったから、暗かったしね。


でも

ようやく・・・・

マンションの通りの向こうにね、お父さんが立っているのが見えたんだ。
ボク、ほーんとに安心したよ〜。


だけどね、
その後、お母さんも大変だったんだって・・・。


お母さんはね、こんなに遅い時間だから大して時間はかからないだろう。
と思ったのに、何故かその時にはレジが込んでいて
思いがけずに時間がかかってしまったんだって。


それで
お店から出てみたら、ボクがいない。
ボクも傘立ても、影も形もない・・・。


頭がホントに真っ白になって、

すっかりバニクっちゃったんだって。

それで
店の脇の方で、ダンボールなんかを整理していたバイトらしいお兄ちゃんに
「ここに、犬をつないで置いたんですけど、見ませんでした?」

と聞いたら
「そう言えば、いたような気がしますけど、
仕事してたんで良く分りません・・・」
と言われて



お母さんには
本当に自分の心臓がバクバクいう音が聞こえたんだって・・・。

そして
この店は駒沢公園通りに面していて、交通量も多いし
事故がどこかで起きてないかと必死に通りのアチコチを見回しながら

大声で
「シャンディ! シャンディ!」
と泣きながら、探し回ってたんだって。

それで、取敢えず交通事故もなさそうだったので
今度はお家の方に向かって

大声でボクの名前を呼びながら必死に歩いたんだけど

その時、お母さんは無意識に
携帯電話のお父さんの短縮ダイヤルを押したらしい。

でも、本人は全然覚えていなくて
「シャンディ! シャンデイ!」
と叫んでいたから
車で家に向かっていたお父さんはビックリして


「もしもし、もしもし・・・・何があったの?」
って聞くんだけど、遠くから
「シャンディ!」と泣き叫ぶお母さんの声が聞こえてくるばかり・・・

丁度、お父さんも車で家に着き、

急いで
取敢えずマンションの前の通りに出てみてたんだって。





その頃お母さんは

ボクの紐を縛ってあった傘立てと傘が
バラバラとアチコチに落ちているのを
通りの途中で見つけたの。

その時
丁度自転車で二人乗りしていた若いカップルが
やって来て、お母さんに

「どうしたんですか?」

お母さんは
「この位のシー・ズー犬がいなくなっちゃって、探してるんです。」
と言うと

「じゃ、一緒に探してあげますよ。」
と、自転車で通りの向こうまで走っていったかと思うと

「こっちにいますよ〜。」

って大声で教えてくれたんだって。





お母さんは
「え〜、本当?どうもすみません。」

とか言いながら
大急ぎで駆けつけると

マンションの入り口近くの向こう側にお父さんが
真中にボクがいたって訳・・・。

ボクも丁度お父さんを見つけたとこだったの。

それでね、お父さんもお母さんも
「シャンディ!」
って呼んでくれて・・・・。

ボクは嬉しくなって
近い方にしゃがんでいたお父さんの胸にジャンプしたの。

お父さんは
「シャンディ、何が有ったの?心配したよ。」

って言ったの。

そして
お母さんがお父さんに事情を説明したの。

お母さんは
「シャンディ、こんな可愛い子を置いていなくなっちゃう訳ないでしょ。
心配しないでね。
これからも、ず〜〜〜っと一緒だよ。」

って抱きしめてくれたの〜。


後で、お父さんとお母さんがね、

シャンディをはさんで、二人でこっちへおいで・・・
呼んでたとき
まるで、映画の「クレイマー クレイマー」
みたいだったね。

って笑ってたけどね。





その後

お母さんが急に
「そうだ、傘立てと傘、どうしたかしら〜・・・」

と、現実に戻ったの。

急いで皆で傘立てが落ちていた方へ探しに戻ったんだ。

そしたら
丁度、コンビニのお兄ちゃんが
傘立てと傘を回収しているところだったの。

それで、二人でお詫びを言ったらね、

「傘立ても傘も壊れてないし、大した物じゃ有りませんから、ご心配なく。」
って親切に言ってくれたの。

良かった!


帰りながら、お父さんとお母さんが話していたの。

「あの重い傘立てと傘三本を、シャンディがどうやって
ほんの短時間にあそこまで引きずっていけたんだろう・・・

ホントに必死だったんだね。
もう一回引っぱらせても、絶対に出来ないだろうねー。」

ワンコにも火事場のバカ力ってあるんだね。」

って、大笑いだったんだよ。

ひどいでしょ?


あっ、ボクのウン〇?

みんなすっかり忘れてしまって
笑いながらお家へ帰ったの。

勿論、ボクも・・・。

だって

こんなに怖かった経験、生まれて初めてだったんだもん・・・。